2014年5月2日金曜日

アニメ「氷菓」にみるキャラクタのバックボーンの重要性

「えるたそ~」という言葉を久しぶりに聞いたのをきっかけに,アニメ氷菓を見ました.
舞台は,高校の古典部.
省エネ主義の折木奉太郎が,古典部(主に千反田える)を通じて少しずつ変わっていく様子が描かれます.
毎回,千反田えるが画面にアップで「私,気になります!」というシーンはあまりにも有名です.
いわゆるお決まりのシーンを見るたびに,これから奉太郎の活躍とウキウキしながら見ていました.
「私,気になります!」は,視聴者に対する一種のスイッチとして働いているといえるかもしれません.
ただのダウナー系主人公かとおもいきや,折木奉太郎は清々しい活躍をしてくれました.
省エネ主義を掲げる奉太郎は,「やらなくてもいいことなら,やらない」めんどくさがりな性格です.
しかし,解決すべき問題に出会うと「やらなければいけないことは手短に」と,迅速に事態を収拾してくれます.
「能ある鷹は爪を隠す」という言葉がぴったりと当てはまる人物だといえるでしょう.
的確に物事を言い当てていく様子は,口数も少ないためか,一言一言が頼もしく感じられました.
他の古典部も実に個性的なキャラクタばかりでした.
取ってつけたような個性ではなく,キャラクタのバックボーンがしっかりと感じられる作りになっていたことに好感が持てました.
例えば,奉太郎の中学からの友人である,福部里志.彼を一言で言えばムードメーカー兼データベースでしょう(データベースは本人談).
奉太郎のすぐ近くにいる里志ですが,近くにいる分奉太郎からの大きく影響されています.
里志の言動は,とても個性的で独特な言い回しを持っていて,首をかしげながら鑑賞していました.
劇中のあるエピソードで,里志が取り上げられたときに描写された心情に,とても共感でき,その性格も合点がいきました.
そのエピソード後には,里志を別の視点で見るようになりました.
そんな里志に思いを寄せる,伊原摩耶花は,実に高校生的です.
彼女からは,ただ単に要素を削った無個性ではなく,一般的であるゆえの無個性を感じさせました.
無個性ですが,学校内のコネクションを一番多く持っているのは彼女ではないでしょうか(あるいは里志).
彼女がいるがゆえに,氷菓が古典部という閉じた物語ではなく,高校の中の古典部という少しだけ開いた物語に感じられた気がします.

アニメでは,1.問題が発生,2.問題を解決するというシンプルな構造を持っています.
だいたいの話では,1.問題が発生し,2.えるが「わたし気になります」,3.里志「奉太郎,何かわかったね!」,4.謎解きという段取りです.
このお決まりとも言えるフレーズは,マンネリを誘うものの,話の節目が分かり,テンポ良く見られるという利点があります.
2.「わたし気になります」から奉太郎は,謎となる部分の整理を始めます(これもお決まり).
このタイミングから,視聴者も謎解きに参加することができます.奉太郎VS視聴者という構図と言えるでしょう.
奉太郎は,おおよそ3.「奉太郎,何かわかったね!」で謎を解いているため,里志の発言を境に決着がつきます.
この一緒に謎を解くという体験がアニメで楽しめるとは思いもよりませんでした.
たとえ謎が解けなくても,奉太郎が謎解き(解説)フェーズに移ってくれるので余計なストレスはたまりません.
謎解きでは,モーションタイポグラフィのようなアニメーションを交えた解説がなされます.
図解することで,トリックの理解を助けてくれるので,謎解き場面を退屈せずに楽しむことができます.

えるが初めて「私,気になります」と言うシーンでは,画面が奉太郎の主観になり,画面に奉太郎補正(エフェクト)がかかり,ファンタジーな画面に表現されます.
「私,気になります」をやっと本編で見ることができたちょっとした感動とファンタジーな画面に,心射抜かれたような気分でした.
奉太郎にとって,えるとは,古典部にそのまま入部し続けるきっかけを作った人物であり,古典部に居続ける理由でもあるわけです.
話数が進むに連れて,奉太郎とえるの距離は確実に近づいていきます.
この距離感も絶妙で,明らかに近づいていることは分かるが,あからさまに近づいていくような下品さは感じませんでした.
その様子が,実に俺好みで奉太郎振り回されてるなあと内心ニヤニヤと鑑賞していました.
えるは,髪をポニーテールにしていたときが一番かわいかったと思います.

氷菓は,キャラクタがバックボーンがしっかりしている上に,役割や立場が明確で,本当の意味で個性的でした.
だいぶ楽しませてもらったアニメです.なかなか新鮮な思いをしました.

最も好きなエピソードは,「かんや祭」での自主制作映画です.
鑑賞していて,話に振り回される感覚がとても印象に残っています.